サンデー毎日連載(04年6月〜05年8月)の単行本化。恩田版「ガラスの仮面」ともいえる大河熱血演劇ロマンの誕生。業界に名をとどろかせる伝説のプロデューサー芹澤泰治郎が、10年の空白を経て新作舞台を手がけるらしい・・・。そんな噂がかけめぐる演劇界で、中堅女優・東響子と天才新人女優・佐々木飛鳥が、それぞれの舞台で、幾度もくりかえされるオーディションで、手に汗にぎるはげしい演技を展開する。演じる者だけがみることのできる「向こう側」の世界へ・・・



2***年。「8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡する」と発表されてから5年が経った。恐怖心が巻き起こす、殺人、放火、強盗・・・。社会に秩序がなくなり、世界中が大混乱に陥る中での、仙台市北部の団地に住む人々の葛藤を描く。自分の言動が原因で息子が自殺したと思い込む父親(「終末のフール」)、長らく子宝に恵まれなかった夫婦に子供ができ、3年の命と知りながら産むべきか悩む夫(「太陽のシール」)、妹を死に追いやった男を殺しに行く兄弟(「籠城のビール」)、世紀末となっても黙々と練習を続けるボクサー(「鋼鉄のウール」)、落ちてくる小惑星を望遠鏡で間近に見られると興奮する天体オタク(「天体のヨール」)、来るべき大洪水に備えて櫓を作る老大工(「深海のポール」)など8話で構成される短編小説集。

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<編集者コメント>
もしも、地球滅亡まであと3年だとしたら・・・。あなたは残りの日々をどう過ごしますか? 全人類が滅びるその瞬間、あなたは誰といますか? 「終末のフール」は、そんな厳しい問いかけを投げかける連作小説集。息子を死に追いやったと思い込む父、子供を授かった夫婦の苦悩、擬似家族と過ごす元舞台女優、黙々と練習を続けるボクサー・・・。親子、兄弟、夫婦、友人など、伊坂さんのこれまでの作品にも取り上げられた人間関係のエッセンスが、一遍一遍に凝縮されています。愛する人を亡くしても、世界の終わりが近くても、それでも人は必死に今を生きていく・・・・普通の人々の悲喜こもごもが時に哀しく時に滑稽に描かれます。
担当編集は、伊坂さんから原稿をいただくと、他の仕事を放って(笑)静かな喫茶店に直行し、むさぼるように読みました。そしていつも満足のため息をつきながら、コーヒーを飲む・・・という編集者冥利につきる時間を過ごしたものです。ある時は、思わず涙腺がゆるみ困惑したこともありました。登場人物と性別や年代や状況は違っても、それぞれのどこかに自分を重ねる思いになる・・・つまり、今の自分を照らし出す小説なのです。8話、全部いいです! 伊坂さんも「一作一作書いていくたびに、達成感があった」とおっしゃる極上の作品群。自信を持ってお奨めいたします!