時空を超えた老エースとの因縁の糸
昭和6年8月13日の甲子園。斎藤が立ったその同じマウンドで、若き日の老エース・島津雅男は、がっくり膝をついた。愛知・中京商業に逆転サヨナラ負け。実はこの勝利こそ、昭和6〜8年に「夏の大会3連覇」の偉業を達成する中京商業の、最初の一勝だった。
――それから75年。
京商業以来の「夏3連覇」の目標を引っ提げて甲子園に乗り込んできた「北の王者」駒大苫小牧高校。その最後の試合で立ちはだかったのが早稲田実業だった。驚くべきことに斎藤は、この「時空を超えた因縁」を知った上でマウンドに上っていた。
「僕は早実野球部の歴史を背負って投げていたんです」
これもまた、斎藤の言葉である。
齢92となった島津は、斎藤のピッチングを見届け、「75年前の敗戦」もすべて運命だったことを悟る。そして、ハンカチ王子にあるメッセージを伝える……。
本書には、斎藤佑樹と老エース、二人をつなぐ早実の歴史も描かれている。王貞治荒木大輔が語った「甲子園の忘れ物」。夢半ばで逝った名将・和田明の秘話。それらはすべてどこかで、この夏の全国制覇、斎藤佑樹の成し遂げた偉業につながっていた。早実vs駒苫の球史に残る激闘と因縁を「75年前の壮烈な死闘」から解き起こした感動の甲子園ノンフィクション。読み終えた時、あの感動の全国制覇が、「運命」という言葉だけでは収まらない、凄絶な歴史のドラマでもあったことに気づかされる。